2010年11月10日水曜日

平富恵

ポップなアレンジのバッハでのオープニングから
タンギージョでのアンコールまで1時間半
スペイン舞踊とフラメンコをたっぷり楽しませてくれた。

クラシコ・エスパニョールとよばれる、
フラメンコやエスクエラ・ボレーラのテクニックをつかって
クラシック音楽にあわせて踊られるものは、
日本ではあまり知られていないかもしれないが
フラメンコと表裏一体とでもいうべきところもある
美しい舞踊である。
スペイン国立バレエ団の「ボレロ」などをおもいだしてほしい。
ここで必要とされる回転などのきちんとしたテクニックは
フラメンコでもいかされる。

小松原舞踊団出身の平は、2003年、ラ・ウニオンのコンクール準決勝に出場し
その美しく優雅なバタ・デ・コーラつかいで注目をあびた人。
彼女の主宰するスタジオではフラメンコだけでなくクラシコも教えるというだけに
今回のリサイタルもはじまりはクラシコ。

カスタネットをつかったバッハによるオープニングから、
ゲストの元スペイン国立バレエ団プリンシパル、ルイス・オルテガのソロ。
サラ・バラス舞踊団の、という方が今は通りがいいかもしれないが、
きちんと基礎のあるしっかりした踊り手だ。ここでもあぶなげなくみせる。

バタ・デ・コーラとアバニコをつかっての華やかなアストゥリアス。
バタが軽いせいか、足もとがかなりみえすぎてしまう。
ハビエル・サンチェスのソロは振りも曲も同じような繰り返しが少しくどいかも。
女性たちの「はかなき人生」は編曲と衣装こそネオ・クラシコ風だが、
振り付けはオーソドックス。

その次の「タクトゥタ」と題された、いわゆる口タブラの曲で
平とハビエルが踊る曲が良かった。
同じような試みはかつてベレン・マジャとラファエラ・カラスコもやっているが
男装の平とハビエルとのかけあいが面白い。

サジャーゴの孫だというカリダ・ベガがバラードを歌いながら客席から現れ
クラシコからフラメンコへ。
平の、バタ・デ・コーラとマントンの華やかなロメーラ。
マントンが落ちそうになるアクシデントも余裕で処理したのはさすが。
マントンや花、櫛、アバニコなどが落ちたり、のアクシデントは誰にでもおこりうる。
それをどう処理するかが問題。
とはいえ、もちろん落ちないように対策を十二分にとることが大切なのはいうまでもない。
ルイス・オルテガのソレア・ポル・ブレリア。
フラメンコらしいデテールにあふれ素晴らしい。
女性6人にハビエルがからむグアヒーラ(再びアバニコ)、ギターソロに続き
ルイスと平のシギリージャ。
最初から最後まで、カスタネットのかけあいをのぞき
二人が同じ振りで影のように踊るのが珍しい。
最後はブレリア。そしてアンコールでタンギージョ。
このタンギージョがなかなか楽しい。
ふくらませてプログラムの一曲としてもよかったかも?

結果としてクラシコとフラメンコが半分半分というコンサート。
あれもこれもつめこんだおもちゃ箱をひっくりかえしたように
バラエティにとんで華やかな公演だったが
その反面、焦点が少しぼやけてしまったような気もする。
群舞を減らし、平のソロ/デュオをもっと前面におしだしてもいいのでは?
振付家、ディレクターとしての面を出したということなのかもしれないが、
舞踊家としての、ダイナミックな魅力をもっと出してもいい。

またカスタネット、バタ・デ・コーラ、アバニコが繰り返しつかわれるが
そのため、これら技術と訓練を必要とされるものが効果をあまりあげていない。
このあたり演出にもよるのかもしれないが、
整理していけばもっと印象的なものとなるだろう。

またフラメンコではもっといい歌い手がくれば踊りもぐっとはえたことだろう。
フラメンコは歌を踊る。
いい歌が踊りにインスピレーションをあたえる。
好きな歌い手でないと踊れない、というエバ・ジェルバブエナのように
とまではなかなかいかないかもしれないが、
平ほどの実力があればそれにふさわしい歌い手を選んでもよかったかもしれない。

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