2017年11月5日日曜日

日本のフラメンコ 石井智子「ちはやふる 大地の歌」

素晴らしかった。いやあ、本当に素晴らしかった。
これが二日間、2回の公演だけなんてもったいなさすぎる。
美しく、楽しい。非常に完成度の高い作品。
フラメンコが好きな人だけでなく、広く一般に楽しむことができる、そんな作品。

石井智子スペイン舞踊40周年記念公演は11月4日、5日に 北千住シアター1010で。
その4日の公演を見た。第一部は百人一首をテーマとした、和とフラメンコとの競演、第二部はフラメンコだけでなく、民族舞踊であるホタやエスクエラ・ボレーラも取り入れて、広くスペイン舞踊の世界をみせると言う二部構成。その構成も見事なら、それぞれの演目もしっかりと作られていて破綻がない。
独りよがりになることも、観客におもねることもなく、観て美しく、楽しい。

かるたが、花が舞い、水が流れ、モチーフとなった歌の書(桃果)がプロジェクションマッピングで描かれる中、和歌の世界がフラメンコと和の楽器で展開されていく。
太鼓の上でのサパテアード。和のテイストのフラメンコ衣装。
小野小町に扮した石井の美しさ。
和太鼓と尺八に絡む在原業平となったフンコのサパテアード。「Pasión 情熱」
「Melancolía  憂い」での、小町の黒い長い髪はフラメンコ的でもあり、遠くて近い、スペインと日本、フラメンコと私たちを象徴しているようでもある。
客席から登場した太鼓隊とカスタネット鳴らす群舞が競演する「Brisaそよ風」の場面の楽しさは特筆ものだ。太鼓の音にカスタネットも負けていない。フォーメーションでみせる美しさは群舞の醍醐味だろう。モチーフとなった持統天皇の時代、万葉集的なおおらかさが感じられる。
「Lamento 嘆き」ギターと琴の競演は初めて見たが、美しい。お互いを引き立てあうのは、演者の互いへのレスペト、敬意ゆえのことだろう。
「Destino宿命」はチェロと尺八による、スペインを代表する作曲家の一人、アルベニスの「アストゥリアス」で、ふた組のパレハが踊るという趣向。スペインのクラシック音楽と和楽器の出会いは新鮮。また振り付けも美しい。客演の松田知也、土方憲人も好演。
「Firmamento天空」は圧巻の一言。太鼓や琴の音で、華やかに踊る群舞は風であり雲、その中に、天照大神のように降臨する天女、石井智子。その存在感。タイプは違うが、マヌエラ・カラスコのような、女神感が確かにある。よく揃った群舞も華やかで楽しい。


第二部のオープニングはホタ。
跳躍が特徴的なこの舞踊を、子供の時から毎週習っている、地元の人やスペインの公立舞踊学校スペイン舞踊科出身者以外で、これだけ踊るのは珍しい。かつてはスペイン舞踊団の演目としてよく取り上げられ、若き日のファルーコらもピラール・ロペス舞踊団などで踊っていたという。小松原舞踊団時代に、ホタ中興の祖とでもいうべき、ペドロ・アソリンの直接指導を受けた石井が男装で、舞踊団の後輩、中島朋子とパレハで踊る。
足を高く上げるその角度! そして跳躍。男性顔負け。ダイナミックで楽しい。
エル・フンコは椅子に座ってはじめるソレア。シンプルだが、フラメンコのエッセンスが強く感じられるソレア。椅子1脚だけで、ドラマチックに見えてくる。
エスクエラ・ボレーラのセビジャーナスも日本で踊られるのは珍しい。バレエの素養のない人がここまで踊るまでにはどれだけの苦労があったろう。いや、素養があっても、ボレーラ独特の、首のラインとか、軽く曲げた腕のラインとか、非常に難しいはずだ。
真紅のバタ・デ・コーラの石井によるシギリージャ。カスタネットとマントンを使っての伝統を感じさせるシギリージャ。カスタネットの音色に至るまでひたすらに、これもまた美しい。ミゲル・ペレスのギターの素晴らしさ。フアン・ホセ・アマドールの声の深い響き。バックを飾る、堀越千秋の幕が、モライートのシギリージャの調べを思い起こさせる。二人とも今はいない。オマージュを感じる。
同じく堀越の幕が舞台を額のように彩り、洞窟を作り、モスカ、カチューチャ、タンゴなどグラナダのフラメンコをみせる。洞窟のフラメンコの店で踊られているものよりも、より洗練された、舞台のための、舞踊団のための、という感じ、だけど、それは決して悪いことではない。群舞のフォーメーションや子供を使ってのちょっとした芝居風の動きなど、“みせる”工夫が随所に施されている。モスカやカチューチャのコーラスも良かった。
ファルーカはモダンな男装だったが、個人的には、彼女の雰囲気から、クラシカルなアマソナ風の、巻きスカートに丈の短いジャケットといった乗馬服風のものなどもよかったのではないかと思う。
フンコと石井の息子、岩崎蒼生が二人でみせるブレリアも、ちょっと芝居が入った二人の掛け合いが楽しい。それにしても上手くなった。フラメンコを踊る子供、ではなく、踊り手として評価される時が来た。ちょっとした間合いや回転に味があり、スペインで多くの師に学んでいるだけのことはある。
最後はアレグリアス。バタ・デ・コーラでの群舞、最初、練習の時と歌が変わったのか、きっかけが上手くわからなかったような出足の不揃いなどはあったものの、すぐに取り戻す。石井とフンコのパレハも、長年の共演の成果もあるのだろう、息が合っていて、安定感がある。
最後はフンコが歌うタンギージョ。第一部に出演していた太鼓隊なども加わり、楽しいフィエスタ。色とりどりの衣装も、それぞれがある程度自由に踊っているのだろう部分もあって、とにかく楽しく、気分が上がって閉幕を迎える。
ブラボー!

石井の存在感、それをサポートするスペイン人アルティスタたちも一流。
和を意識した衣装や和楽器とのコラボレーションも楽しく、それを彩る、プロジェクションマッピングなど、美術も素晴らしい。照明は、時に、ここはスペインですか?というくらいに暗めだったのがちょっと残念だったけれど。(やっぱ私は踊り手の顔が見たい)
フラメンコを知らない人でも楽しめる内容、構成。作品としての完成度はピカイチ。
衣装も華やかで素晴らしい。
小松原舞踊団での経験、大学の芸術学部での学び、スペイン人たちとの共演、そして自らが主となって作ってきた数々の舞台。そんな経験がぎゅっと凝縮されての舞台だ。
特に良かったのが振り付け。群舞も、全員が同じ振りを客席に向かってするだけではなく、フォーメーションを考えて、工夫されている。また、一人だけがいつも前のセンターというわけではなく、それぞれに見所をちゃんとつくっている、という感じ。また、群舞でも違う振りをするところもあり、タンギージョなどでは個性も垣間見える。
40年のキャリアはだてじゃない。

さて、次は何を見せてくれるのか? 楽しみなことである。

でもその前に、これ、文化庁かどこかお金出してもらって、ぜひ、スペインでもやってもらいたい。日本とスペインの文化の融合、このレベルまで、ってあまりないですよ。








 

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